鈴木博之先生を囲んでの12月12日の邸園交流かふぇ
今回の邸園交流かふぇは、近代建築史が専門の
鈴木博之先生をお招きした車座講演会。
鈴木先生は現在、東大名誉教授・博物館明治村館長。
お若い頃、古稀庵の保存調査を行った方です。
近代日本の別荘・別邸の歴史を踏まえた、
小田原や清閑亭の位置づけについてお話いただきました。
先生のお話のポイントは「別邸とはライフスタイルにあわせた空間」。
これまでの建築史では、建物が和風であるか洋風であるか、
東大建築学科OBを中心とする有名建築家が手がけたかどうか、
という点が注目されていたとのこと。
これに対して先生は、和風洋風の違いよりも主の望むライフスタイルこそ
建物の成り立ちや使われ方を考えるうえで大切だと。
また、今まで知られていなかった「数寄者」による建築にも
注意を向ける必要があることを強調されていました。
「数寄者」とは茶の湯に通じた人のことで、建物(数寄屋)や庭(茶庭)の
細かなつくりにも造詣が深く、自ら設計を手がけるような人のこと。
具体的には、
(1)湘南のライフスタイル:ワークライフバランス?
近代日本には、
京都・高原(那須や御殿場)・海浜(湘南や須磨)・温泉(箱根や伊香保)などの
それぞれライフスタイルに対応した別荘・別邸集積地がある。
なかでも「湘南ベルト地帯」(神奈川県葉山から静岡県興津)は、
仕事と生活のバランスを考えた健康志向のライフスタイルに対応しているとのこと。
たとえば政治家にとっては、湘南ベルト地帯のなかでも、
どれだけ東京から離れるかによって、その人の考え方や、
その人の政治的な力の大きさも分かるとのこと。
小田原は湘南ベルト地帯のちょうど真ん中。
まさにバランスのとれたライフスタイルにもってこいの場だと言えると。
(2)趣味のつながり
数寄者のかかわった邸園は、
趣味を共有できる人たちがゆったりと時間を過ごす交流の場。
使われている木材、施されている匠の技など、見れば見るほど奥が深い。
たとえば清閑亭の座敷の火灯窓も、桂離宮に似たようなものがある。
こんなことで話の花が咲く。
以上のお話を、先生が30年来撮りためてこられた貴重な写真とともに、
ユーモアたっぷりに展開していただきました。
1時間あまりのお話のあとは、地元の和菓子店のどら焼きをつまみ、
足柄茶をすすりながらの車座ディスカッション。
車座での新たな発見としては近代の庭の趣味の話が。
造園家の高崎さんから「趣味の1つに文人趣味がある」との指摘が。
「文人趣味」というのは、漢詩の世界を建物や庭に再現し、
そこから読み取れる故事や物語をライフスタイルにとりいれるもの。
まさに清閑亭の主・黒田侯爵は漢詩を愛した文人趣味の人。
庭木にも「かりん」などが選ばれるなど文人趣味的な要素があるとのこと。
これから庭だけでなく建物のしつらえを見てゆく時にも参考になりました。
車座には、葉山や藤沢、大磯の方たち、建築や造園の専門家、
いつもいらしていただく小田原のみなさんたち、さらには
ツイッターをみていらした栃木や千葉の方も。
造園の専門家の方たちによれば、今、庭の分野では立ち遅れている
庭園遺産のリストアップを学会として進めていらっしゃるとのこと。
今回、古稀庵や老欅荘の庭をはじめて確認され、
今後リストに加えて注目したいとのことでした。
また、会場には瓜生外吉大将のお孫さんもお見えに。
これからますます邸園交流が広がる予感の深まる車座講演会でした。
鈴木先生、またいらしていただいたみなさま、ありがとうございました!